幼稚園概要②

                                       
⑶ 明治・大正・昭和の恩物 
 恩物とは,幼稚園の創始者であるドイツのフレデリック・フレーベル(1782-1852)が考案した教具である。
 土浦幼稚園では,創立まもなくからすでに,当時日本では最新であったこの恩物を積極的に保育に導入していました。現在は,第二・十六を除く18の恩物が残っており,教育史の上でも大変貴重な資料となっている。
 
第一恩物 六球法
      
 この恩物は、赤・青・黄・紫・緑・檀(だいだい)の、六色の毛糸でできたボールです。赤・青は太陽と青空を、黄は地球を表しています。そして、赤・青を混ぜた紫、青・黄を混ぜた緑、黄・赤を混ぜた檀の六色です。木枠に吊り下げて色を見分けさせたり、揺れる様子を観察したりしますが、外してボールとして自由に遊んだり、鳥やうさぎ、犬などに見立てて、それらが飛んだりはねたりする様子を表して遊んだりもできます。また、寝ている赤ちゃんの上で揺り動かして遊ばせたりもでき、比較的小さな幼児から使うことができる恩物です。


 第三恩物 第一積体法
      
 この恩物は、8個の1寸㈲3cm)の立方体の積木です。第三~第六恩物は、全て立方体の箱に収められていますので、まずふたを下にして伏せ、ゆっくりとふたを横に滑らせて抜き取り、箱をゆっくり持ち上げると、立方体に積みあがった形を示すことができます。
そして、全体を2・4・8等分して幼児に示して見せたり、並べたり積んだり数えたりと自由に遊ばせます。また、遊びの最後には8個を揃えてきちんと箱に収める事も重要です。それは、一つ一つの積木は独立した物ですが全体の一部でもあり、一つでも欠けると全体が形作れない事を、自然に学ぶためでもあります。


第四恩物 第二積体法
      
 この恩物は、8個の長方形の積木から成っています。縦2寸(約6cm)、横1寸(約3cm)厚さが5分(約1.5cm)です。前述の第三吸物と比べると、縦が2倍、横は同じ、厚さが2分の1になっています。それぞれは違う形なのですが、8個組み合わせると、まったく同じ大きさの立方体になることを幼児にも示し、好奇心を引き出すとよいでしょう。


 第五恩物 第三積体法
      
 この恩物は大小39個の積木から成っています。そのうちの21個は1寸(約3cm)の立方体・、6個はその立方体をふたつの三角柱に分けたもの、12個は4つの三角柱に分けたものです。これもまた、組み合わせるとひとつの大きな立方体となり、ばらばらにすると27個の小さな立方体となることを示します。この恩物で、初めて三角形が出てきますので、積木の恩物を組み合わせて多様な形を作ることができるようになります。


 第六恩物 第四積体法
      
 この恩物は、大小36個の積木から成っています。第四恩物と同型(縦2寸、横1寸、厚さが5分)の長方形が18個と、その長方形を縦にふたつに割った柱形が6個と、その長方形を横にふたつに割った正方形が12個ですj数や形式が変化に富んでいて、今までとは違った複雑な形も作ることができるようになります。 

 

第七恩物 置板法
      
 この恩物は五種類の小さな平板で、入れる箱も五種類用意されています。表裏が白・赤の正方形12個、赤・緑の直角二等辺三角形16個、黄・紫の二等辺三角形16個、青・檀の直角三角形24個、白・黒の二等辺三角形8個から成っています。これまでの恩物は立体であったのに対し、これは平面の形で遊ばせるのが目的です。立体では、何かの形の全体をまねして作るのですが、これは平面にとどまるので、想像力が必要になります。これが、この遊びの高度な点です。

 

 第八恩物 置箸法
      
 この恩物は長短五種類の細い木箸です。最も長いものは5寸(糸勺15cm)、その次は4寸(糸勺12cm)、そしてだんだんと短くなり、最も短いものは1寸(約3cm)となっています。12個を一組として五種あわせて60個を使用しますo幼稚園では、この木箸を保母の指示に従い箱から取り出し、机の上に組み置き、いろいろな物の形を造ります。幼児は両目を閉じても手探りでその造り出した形が何なのか簡単に判るようになります。フレーベルはこれを手探り絵と名付けて、第十恩物図画法への予備学習としました。またこの置箸法を用いて、数字、片仮名、乗算(かけ算)を無理なく習わせることができます。

 

 第九恩物 置鏝法
      
 この恩物は鉄線でできた大小二種の令借(円輪)と半端(半円)です。大きいものは直径2寸(約6cm)、小さいものは1寸(約3cm)とします。全端の数は大小合わせて24個、半端はこの二倍の48個です。この遊びも置箸法と同じく第十恩物 図画法への手引きとなります。置箸法は図画の直線を表し、置端法は円線や弧線を表します。そしてこの端を用いると円球あるいは円筒を造れるので、大小の端を組み置き、花紋などの美しい形も、表現できるようになります。

 

第十恩物 図画法
      
 この恩物は石盤、石筆に用紙と鉛筆です。そのうち石盤と用紙は表面に1寸の4分の1(約7,5mm)の方形が書かれています、これは幼児が様々なものの形を模写するときに便利なためです。幼稚園では初め、石筆を用い石盤面の方形に直角に一線を書き、これを何度もくり返して上達していきます。そして多くの線を書くことができるようになります。幼児は直線が書けるようになり、次に水平な線を写し書き、さらにはいろいろな形を写し書くようになります、このようにして石盤、石筆の使用に習熟した幼児には鉛筆を与え、紙面に図画をさせます。

 

   第十一恩物 刺紙法
      
 この恩物は針と敷物と用紙です。針は鎗きり)のように細い木の取手をつけた鉄の針です。艮いものと短いものの二種あります。また敷物は厚紙または薄い板に羅紗をかぶせて作ったものです。用紙には1寸16分の1(約2m皿i〉の方形を書いた方眼紙と無地のものを使います。この遊びはまず、一枚の無地の紙を敷物の上に置き、さらに方眼紙を重ねて短い針で上端二隅を刺しとめ方眼紙を平に整えます。そして長い針を用い紙面に画かれた方形の四隅を刺し始め、その刺した穴が多くなり星のように並んでいき様々なものの形を表現できるようになります。


 第十二恩物 繍紙法
      
 この恩物は縫針と色糸。ならびに第十一恩物でつくった刺紙ノです。刺紙と繍紙の二法は幼稚園では二課に分けていますがヽ 刺紙は繍紙の予備課であり、この課では前課で作った刺紙に各 種の糸を縫いつけて遊びます。この遊び方は前課でしたように、 四隅から順に縫い始め、次にいろいろな線へと進み、やがてさ まざまな形を糸で表現します。


 第十三恩物 剪紙法
      
 この恩物は6寸(約18cm)方形の用紙ならびに円頭のハサミです。このハサミを用いて幼児はまず四角形の紙をななめに切り離し2枚の三角形にします。その紙を縦に切り、次に返して横に切り、斜めに切り、ハサミの使用法を練習していきます。このようにして、この遊びに熟達すると、花紋などの形を切り出せるようになります。


第十四恩物 織紙法
      
 この恩物は縦に多くの切り込みを入れた台紙と細艮く切った紙片と織針とで構成されます。織針は鉄、銅、あるいは木製の棒針で、頭に割れ目がはいっています。これらを使って遊ぶ方法は、はじめに織り針を台紙の切り込みのあいだに通し、次に、織針の頭の割れ目に紙片をはさみます。そして、織物を織るように紙片を横糸にみたてて台紙の縦線の間に織り込んでいきます。こうして各種の色の紙片を用いて台紙全体に織り込んでいくと、美しい織紙が完成します。


 第十五恩物組板法
      
 この恩物は12個の弾力性のある小板で構成されます。板の大きさは、長さ1尺(約30.3cm)、幅4分(約1.2cm)、厚み6厘(約1.8mm)です。最初に板を観察させ、板に弾力があることや、長さが幅の何倍あるか、幅は厚みの何倍あるか、そのかたちが何に似ているかを理解させます。そして、その後何個かの板を組み合わせて、幾何学的な形をつくったり、実物に似せていろいろな物をつくったりします。


第十七恩物 組紙法
      
 この恩物は、幅1寸(約3cm)の縦長の紙片です。まず、紙を三重にたたんで、幅を元の紙の3分の1にし、厚みを3倍にし、これで正三角形を折ります。このように調整した2個の正三角形の紙片を互いに組み合わせて一組の恩物とします。そして、だんだんと正方形や二等辺三角形に調整した紙片を組み合わせて、いろいろな幾何学的な形をつくります。


 第十八恩物 摺紙法
      
 現在のおり紙のことです。この恩物は二十種の恩物のうち、もっとも簡単なものです。正方形の紙を種々に折りたたんで、無限の有益な美形をつくれるようになることを目標にしていました。

 

 第十九恩物 豆工法
      
 この恩物は、水に浸したえんどう豆と、両端のとがった細い木箸です。えんどう豆のかわりに塞子樹をつかったり、木箸のかわりに鉄線をつかったりもします。豆工法は、第八恩物の置箸法の完成形といえます。置箸法で木箸を組んでつくったものは、そのとき限りのものです。そこで、フレーベルはつくった形を長く保存することができるように、この豆工法を設けました。この遊戯法ではぬれた豆で木箸を縦横に接合して、正方形や三角形といった形からつくりはじめ、だんだん↑こ了やいろいろな家具などをつくるようにしていきます。


 第二十恩物 模型法
      
 この恩物1豺占土と平板と木製の弾力ある箆(へら)で、現在でいう粘土遊びのことです。平板のうえに粘土を置き、箆でこねて円球や麺棒の形をつくることから始め、しばらくして熟練してくると、りんご、梨などの果物や家具などをまねてつくらせます。幼児は常に、外遊びのときに、粘土や雪のかたまりでいろいろな物をまねて作るものなので、この課は幼児が最も好むものですが、フレーベルはこの課を最も高尚なものとして、二十種の遊戯法の最後においています。

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